第三回
ペット業界の裏に潜む闇

穴澤:
映画の中で、ブリーダーの崩壊を「ちばわん」の人たちがレスキューする現場があったじゃないですか? あれってどう思います?
片野:
映画の中で中谷さんが「繁殖屋」って言ってるじゃないですか。そういう人の存在が、犬猫をとりまく問題の闇を深くしている象徴というか。
穴澤:
普通に考えたらね、ブリーダーって割に合わない職業ですよね。
片野:
目先の利益だけを求めると、たぶん1年か2年はプラスになるんですよ。でもすごい勢いで繁殖させるから、そのうち崩壊するんです。
穴澤:
そんなのやる前からわかりきってることですよね。だって海外のブリーダーって、ちゃんとした本業があって、サイドビジネスというかほとんど趣味でやってるでしょ?
片野:
私の知り合いで、本当にちゃんとしたブリーディングをしているところとしかビジネスをしませんよという人がいるんですよ、全部現地まで視察に行って登録制で。で、その登録したブリーダーの皆さんがビジネスとして成り立っているかとうと、ほとんどの方が配偶者が別の仕事をしていたり、会社を経営していたり、土地を持っている資産家とか、そんな人ばっかりなんですって。
穴澤:
ですよね。
片野:
もう本当にその犬種が好きで、ちゃんと最期まで面倒を見てくれる人にしか譲らないという。高尚な趣味の世界ですよね。
穴澤:
そうなんですよ、長い目で見たら絶対儲かりませんから。
片野:
だからブリーダーはビジネスとしては成り立たないんだよというのを、誰かが言ってあげた方がいいと思うんですけどね。絶対無理だからって(笑)。
穴澤:
でも、繁殖屋みたいなところで産まれた仔犬をペットショップで買う人がいるから、いつまで経っても繁殖屋がなくならないわけでしょう。
片野:
私は別にすべてのペットショップの存在が悪だとは思わないんですよ。本音は譲渡会なんかで家族を捜している犬をもらって欲しいとは思いますが、別にペットショップで買ったっていいと思うんですよ。それは選択肢だし。ただ、生涯ね、面倒を見ればいいだけで。
穴澤:
その点は僕も同意見なんですよ。ただね、この前獣医さんから聞いたんですが、弱い個体って、仔犬の頃の見た目がすごく可愛いことが多いんですって。
片野:
そうなんですか?
穴澤:
か弱い、守ってあげたくなるような、なぜかそんな感じだそうです。でね、繁殖屋は何も考えずにブリーディングするから、そういう弱い個体や奇形とかいっぱい産まれるでしょ。その中の一匹が「商品」になって「競り」にかけられるみたいな世界があるわけじゃないですか。ものすごい闇の部分が。
片野:
ほんと、ペット業界の裏には恐ろしい闇が渦巻いていますからね。
穴澤:
そういうことを知っていると、そこら辺のペットショップで犬を買う気にはなりませんよね。もちろんちゃんとしたところもあるし、犬は何も悪くないんですが。けど、そういう部分をもっと広く知ってもらえたら、繁殖屋みたいなところは淘汰されていくと思うですけどね。
片野:
私は人それぞれ温度差や知識に違いはあると思うんですけど、犬好きで犬を飼っていれば、怖いとか知りたくないじゃなくて「この国では毎年殺処分されている犬や猫がいる」という事実は知っておかないと恥ずかしい、くらいの風潮になるといいなと思います。むしろ、そういう問題にある程度興味を持っている方が格好いいくらいの。そうなったらいいなって、思いますね。

(つづく)

穴澤賢(あなざわまさる)

1971年大阪生まれ。犬猫と音楽と酒をこよなく愛するフリーランスのライター。
著書に「またね、富士丸。(集英社文庫)」、絵本「明日もいっしょにおきようねー捨て猫でかおのはなし(草思社)」、CDブック「Another Side Of Music(ワーナー・ミュージック・ジャパン)」などがある。
現在は「大吉」と「福助」の二頭の犬と暮らしている。
BLOG:「Another Days」http://anazawa222.blog13.fc2.com/

片野ゆか

1966年東京生まれ。ノンフィクション作家。2005年『愛犬王〜平岩米吉伝』で第12回小学館ノンフィクション大賞受賞。ほか著書に『犬部!』、『ゼロ!』、『旅はワン連れ ビビり犬・マドとタイを歩く』など。最新刊は10月発行の『動物翻訳家〜心の声をキャッチする、飼育員のリアルストーリー』
現在は「マド」という愛犬と暮らしている。

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